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2.学力向上者-学力層別意識調査回答状況
 
 
 

 

2.学力向上者にみる学力層別意識調査回答状況

 近年、学力テストと平行して意識調査を行なうことが多くなっている。学習に関連した意識調査は、生活・学習習慣や学習意識、学習方法、人間関係などについて択一式の回答をするものだが、生徒の学力を支える背景として広義の学力ともいわれているものである。指導要領事項の到達度的な狭義の学力の幅をさらに広げて、思考・判断・表現の能力を評価したり、コミュニケーション能力や学習意識的なものも評価し、学力の全体像をとらえようとしているといえるだろう。

 ここでは、学習に関する意識調査の項目の中から、狭義の学力=学力偏差値と関連の深い項目を抽出し、なおかつ、学力向上者の意識調査回答状況を調べて、学力向上のために必要な学習意識項目を抽出することをねらいとした。学習指導に伴って、生徒の学習意識的な側面から学力向上へのアドバイスできればと考えたからである。
 
 学力偏差値と4者択一式の意識調査からは、学力と相関関係のある意識調査項目は抽出できても、関連性の実態がわからない。そこで、「学力層別にみた意識調査回答状況」という観点と、1年から3年にかけて「学力偏差値が5偏差値以上向上した生徒の学力層別の意識調査回答状況」という2つの観点から集計してみた。

 生徒の意識調査の結果と学力とは、実際どのような関連があるのだろうか。一般に意識調査結果と学力との相関は低いといわれているが、それなりの相関の高さを示す項目もある。意識調査項目と各教科の学習観点(評定で使用される観点)の成績との重相関分析もおこなったが計数読取の泥沼に溺れることになってしまった。ここでは、5教科合計の学力偏差値と調査項目との関連を学力層別に調べ、さらに、中学1年の春と3年になった時の春の成績を比較し、5偏差値以上の学力の向上があった生徒について、5段階の学力層別に意識調査の回答状況の変化についてみてみた。

  この集計調査により学力の向上に寄与する意識調査項目を抽出することで、生徒の学習指導に幅広く生かしていけたらと考えている。

 



「学力偏差値が5偏差値以上向上した生徒の学力層別の意識調査回答状況」

同一生徒で、1年WAT111号と3年WAT139号の比較で5教科計偏差値 >= 5 の生徒を成績向上者として抽出した。 (WATはS社が発行する中学生を対象としたテスト)
全アンケート項目について回答があることを前提とした。
2011年 3年生4〜6月 調査数:936人 。
調査数の学力向上者の学力階層別(中学3年次)の内訳は次のとおり。

学力階層
人数
65以上
185
19.8
55〜
335
35.8
45〜
262
28.0
35〜
135
14.4
34未満
19
2.0
  合計
936(人)
100(%)

「学力層別にみた意識調査回答状況」

2010年3年生134号 調査数:7141人。
調査数の学力階層別(中学3年次)の内訳は次のとおり。

学力階層
人数
65以上
781
10.9
55〜
1801
25.2
45〜
2485
34.8
35〜
1784
25.0
34未満
290
4.1
  合計
7141(人)
100(%)
(上の「学力向上者の調査」とは、集計学年が異なっているので注意)

 

(1)1日あたりの睡眠(すいみん)時間について
1:6時間未満  2:6〜7時間  3:7〜8時間  4:8時間以上
学力向上者(1年次から3年次にかけて)

3年次平均

(縦軸:学力5段階 横軸:相対横棒グラフ)

 睡眠時間は学力向上とはあまり関係しない。下のグラフの3年次の平均的な睡眠時間と比べて、学力向上者の睡眠時間はむしろ長い。学力が高い成績向上者は、睡眠7時間以下が60%。これは3年の平均よりも長い。学力向上者は睡眠時間を削って勉強しているわけでは決してない。むしろ十分な睡眠をとることが学力向上の条件といえそうだ。学習に集中できるためには最適の睡眠時間を確保する必要がある。
 偏差値30未満の成績向上者は19人2%だが、睡眠時間がやや短いようだ。


(2)朝食を毎日食べている。
1:とてもあてはまる  2:まあまああてはまる  3:あまりあてはまらない  4:まったくあてはまらない
学力向上者

3年次平均

 学力向上との相関は感じられない。 SS35未満の生徒の2割は朝食をとっていないようだ。 朝食をとるとらないは生徒本人の意志であるよりも、家庭環境のためではないか。特に、成績の低い生徒に顕著に出ている。


(3)テレビ・ビデオ・DVDを見る時間について
1:1日1.5時間未満  2:1日1.5〜3時間 3: 1日3〜4.5時間 4: 1日4.5時間以上
学力向上者

3年次平均

 総じて、勉強ができる生徒は、デレビ・ビデオを見る時間は少ない。学力向上者もテレビを見る時間が少ない傾向にある。学力を向上させるためには、ある程度テレビ等をみる時間を減らす努力は必要である。

 ここではグラフ表示していないが、テレビゲームやパソコンのゲームについても同様で、成績のよい生徒は、1日2時間以内にとどめている。これは必須条件といえそうだ。 できない子は3学年ともゲームで1日3時間、テレビで1日3時間も遊んでいる。

 携帯電話の使用時間は、学力の向上とはあまり関係がない。だが、勉強の効率をあげるためには、形態電話は使ってもよいが、1日30分未満に留めておくべきだろう。
 携帯電話の使用時間は、高学年ほど使用時間が増加する。 用もないのに、携帯で時間をつぶすのは時間がもったいない。高学年になると携帯を買ってもらうためか。


(4)読書について
1:ほとんど読まない 2: 月1〜2冊は読む 3: 月3〜4冊は読む 4: 月5冊以上は読む
学力向上者

3年次平均

 成績向上者でも2〜3割の生徒はほとんど本を読まない。 5割の生徒は月1〜2冊程度。中学段階では、学力の向上と読書量とはほとんど関係がない。読書の習慣はほとんどついていない状態。

 下の3年次平均のグラフにあるように、一般に、読書量と学力は完全に比例する。読解力・表現力の向上には読書は必須であるといえる。月に3冊以上、できれば1週間に1冊は本を読むこと。雑誌やマンガは本の中には入らない。

 学年間を比較すると、学年があがるにつれ、本を読まなくなる傾向がある。これはのはどうしてか。勉強時間が増えたからだろうか。3年は確かに、読書が勉強時間に回っているようだ。

(5)保護者とは日ごろよく会話する。
1:とてもあてはまる  2:まあまああてはまる  3:あまりあてはまらない  4:まったくあてはまらない
成績向上者

 家庭内での親子の会話はやはり大切である。
 成績上位の向上者ほど、会話が多い。成績向上とはあまり関係しない。


(6)将来のことを考えるのは大事なことだ。
1:とてもそう思う  2:まあまあそう思う  3:あまりそう思わない  4:まったくそう思わない
成績向上者

3年次平均

 高学力の成績向上者ほど、将来を考えている。将来を考えるから、勉強しなければという意欲・動機付けにもなる。将来の事を考えることは、学力向上のため、学習に向かうための大きな動機づけになるといえる。
 一般に、学力が向上した生徒は、将来のこと・進学のことを考えことがきっかけになることが多いようだ。将来の仕事や能力の発揮する場の可能性を広げるためには、現在の一生懸命に勉強することは不可欠である。自分自身の将来に対して責任をもつこと、そういう生き方をするためには、現在の学習課題を遂行する努力と忍耐は不可避である。

(7) 検定など、資格を取りたい。
1:とてもそう思う  2:まあまあそう思う  3:あまりそう思わない  4:まったくそう思わない
成績向上者

3年次平均

 検定や資格の取得について、成績上位者・向上者ほど積極的である。検定や資格をとりたいという欲求は、言い換えれば社会的認知への欲求ということになるだろう。成績向上者・上位者は、社会的認知の欲求も当然高くなる。自分の将来像について責任をもって考えようとする姿勢は、当面の受験勉強と志望校合格という目標に向かうことになる。これは勉強や成績向上への強烈な動機付けになるだろう。
  受験圧力により子供に勉強させることについては、批判も多いが、このような外発的な動因が、生徒に勉強への積極性や忍耐へと向かわせる要因として極めて強いことは否定できないだろう。

 勉強ができる生徒は、なぜか資格取得の志向が強い。設問の仕方が悪いのかもしれない。

 低学力者が学力を向上させる動因は、直接には「高校進学」ということにつきるのではないか。
高校に進学したいが現在の学力では無理ということになれば、いやがおうにも勉強することになる。成績をここまで上げられればこの高校に合格できるという具体的な目標は、低学力者を学習に向かわせる強力な原動力となる。

 将来の就きたい職業や当面の受験圧力が、学力向上のための直接的な動因になる。自分の将来像に責任があるのは自分だけという意識、そして大学進学と当面の高校進学という目標、これらをしっかりと自分の内に意識化できれば、学習への積極性と忍耐が生まれてくる。
 学ぶことの楽しさやさらにその先の知識への好奇心や探究心は、勉強を始め、成果が生まれ、自己効力感が感じられてこないと、生まれてこないのではないか。

 学習に向かう積極的な姿勢ができたら、次に必要なのは、効率よく学習するための技術や方法を工夫するということである。学習への積極的な姿勢と学習技術・方法が結びついたとき、学力は向上する。以下の意識調査でもその傾向がはっきりと出ている。


(8)わからない問題は自分で進んで調べたり考えたりする。
1:とてもあてはまる  2:まあまああてはまる  3:あまりあてはまらない  4:まったくあてはまらない
成績向上者

3年次平均

 成績向上者は、特に成績上位者は学習に積極的に取り組む姿勢が顕著である。
 成績下位での成績向上者にも学習への積極性が成績中位者以上に出ているのが注目される。この積極性はどこから出てきたものか、原因は不明だが、将来の志望や進学が大きく関わっているはずだ。


(9)学校以外での1日の勉強時間について
1:1時間未満  2:1〜2時間  3:2〜3時間  4:3時間以上
学力向上者

3年次平均

 当然ながら、学力と勉強時間は相関が高い。勉強ができる生徒の学習時間は端的に長い。1日の勉強は、2時間以上は最低確保することは学力向上の前提だともいえる。

 だが、学力向上要因としては、調査結果を見る限り、勉強時間はほとんど関係しない。勉強時間を長くしたからといって学力が向上するものではない。学力を向上させるため、より長い時間勉強したというわけではないということである。勉強への動機付けや意欲がより絡んできて、勉強の質的な変化がないと学力は向上しないということである。
 学力を向上させるためには、2時間の勉強時間をさらに伸ばすということではない。勉強の内容や質、集中力や学習効率をあげるための工夫について、考慮すべきだろう。

 学年別の調査では、中学2年は1年より勉強時間が短い。中だるみかなのか。3年は受験年度なのでいくらか勉強時間が長くなる。他の調査でも同じような結果が報告されている。

 次のような中学生の平均勉強時間の調査がある。
      ある調査   ベネッセ調査(2005年)
中学1年  90分    50分
中学2年  60分    47分
中学3年  100分   81分


(10)宿題は必ずするようにしている。
1:ほぼ完ぺきにやっている  2:やっていることの方が多い  3:やらないことの方が多い  4:ほとんどやっていない
成績向上者

3年次平均

 学力を向上させるための第一歩である。
 成績優秀者においても、向上者においても、宿題をしっかりこなすことは学習に向かう姿勢として大前提である。


(11)テストでできなかった問題や苦手なところを中心に勉強するようにしている。
1:とてもあてはまる  2:まあまああてはまる  3:あまりあてはまらない  4:まったくあてはまらない
成績向上者

3年次平均

 これは大切な要件。受験したテストの結果についてしっかり向き合い反省することは、成績上位者の大事な要件である。特に、苦手教科や分野や課題の克服への積極性は、すばらしい能力である。このような学習意識や姿勢が出来なければ学力向上は望めない。
  低学力者ほど、出来なかったテスト問題への取組み姿勢ができていない。なぜ解けなかったのかの反省がないため、同じような出題に対して失敗を繰り返すことになる。ある程度の外的な強制が必要だろう。


(12)テストに出そうなところを重点的に勉強するようにしている。
1:とてもあてはまる  2:まあまああてはまる  3:あまりあてはまらない  4:まったくあてはまらない
成績向上者


 この種の勉強技術や要領のよさというのは、中学段階で成績を向上させるのに必要な技術ではある。
 勉強や努力が無駄にならないよう、テストで点数が取れるように効率よく学習する姿勢は、学力向上への必要な資質、技術であるだろう。

以上

 
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